華雪さんの書

2021.7.17(土)〜7.25(日)

11:00〜18:00

作家在廊日 17日18日25日

定休日 21日(水)

華雪さんの篆刻ワークショップ 18日

※篆刻ワークショップは満席となりました

 

「中原中也を書きませんか」。ふいに高橋台一さんから言われた。

中原中也はほとんど読んだことがなかった。全集を図書館から借り出すと、その詩は未刊の作品を含めても二冊に収まっていて、30年という彼の人生の短さを感じる。

詩を読むうちに、彼の詩に現れる雪が目に留まった。
「生ひ立ちの歌」は、「私の上に降る雪は/真綿のやうでありました」とはじまり、幼年時と題される章から少年時を経て年齢を表す数字の章へと進む。最後の数字は24で、雪は「いとしめやかになりました……」と閉じられる。

雪の字に「すすぐ/そそぐ」という意味があることを知ったのは30代に入ったころだった。まだ雪の降らない季節に公開制作として一日中「雪」の字を書き続けた。自分の生きてきた時間を洗い流したいような思いを抱えていた時期だった。

生まれ育った京都の南の街では、雪はほとんど降ることがなかった。
20代半ばに行った冬の新潟で、灰色の空から降りしきる雪を見上げ、わたしは雪を知らないのだと思った。

幼い息子を病いで亡くした29歳の中也は日記に「降る雪は/いつまで降るか」と筆書きし、その上にバツ印を記した。その翌年、8年前に書きかけ未完だった雪をめぐる詩に改めて加筆修正を行う。
詩は、「雪が降ってゐる、とほくを。」と繰り返され、「雪が降ってゐる、なほも。」と締めくくられる。

ひとりの男が降る雪を見上げている。
中也の描く雪を読むうち、自らに降りしきるものを戸惑いながらも飲み込もうとする彼の姿を感じた。
そして中也の描いた雪は、新型コロナウイルス感染拡大の中を生きるわたしたちの世界にも重なるような気がする。

中也が長く生きたとしたら、彼の描く雪はどんなふうに変わっていったのだろう。それはいつか解け、新たななにかへと変わっていったのかもしれない。その先を見てみたかったと思う。

書家・華雪

14. 7月 2021 by STAFF
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